指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

区立の申込用紙配布開始。

区立幼稚園の申込用紙が今日から配布となる。配布は午前9時からなのだけどもっとずっと早くに目が覚めてしまったので区報とウェブでしか知らない区立幼稚園二ヶ所の位置を散歩がてら確かめに出かけた。最初に一番近い方を見に行く。それでも僕の足で15分かかる。しかも片側二車線で往来も結構激しい道の、ところによってはかなり狭くなっている歩道を行かなければならない。普段そちらの方向に行く用事は特にないのでこれまであまり問題とも思わなかったが、通園に使うとなれば子供を連れて毎日通る道だ。この道がどうにも気に入らなかった。そこが最寄りの区立だと家人に知らされたときにも気に入らなかったし、実際に歩いてみてますますその思いを強くした。交通量が多すぎる。排気ガスの匂いが強すぎる。歩道が狭すぎる。とりあえず場所を確かめるだけ確かめて詳しい検討は後回しにすることに決めた。
そこからうちを経ずに近道してもうひとつの幼稚園に向かう。ひどく入り組んだ道でわかりにくく、道がわかっている場合に較べておそらく二倍ほどの時間がかかった。意に反して全然近道じゃなかった。でも結構高級な住宅地だけあって歩いていても何となく気分がいい。道は狭いけどその分クルマもほとんど通らない。幼稚園も閑静な場所にあり園庭も広く明るくてひと目で気に入った。うちからなら広い公園を抜けて駅前に出、そのまま駅の反対側の細い道を行けばよく、時間はかかるかも知れないが歩くのが楽しそうだ。迎えに行くのは無理だけど、送りには僕が行きたいと思っているのでこれは好材料に思えた。
帰ってから家人と話し合い、区立は後者一本に決めてしまった。念のため前者の申込用紙ももらいに行くつもりだったが、それほど気に入ったのならという家人のひと言で後者だけでいいことにした。
前にも書いたように幼稚園は嫌いだったが、ひとつ楽しいことがあった。それは通園路にお菓子屋さんがぽつんと一軒だけあって、帰り道に母親の気が向くとそこで何かお菓子を買ってもらえることだった。お菓子そのものもうれしいのだけどそこでお菓子を買ってくれるときの母親は、決まって何か柔らかなものを発散していた。その母親の柔らかな感じがとても好きだった憶えがある。どちらかと言えば厳しい母親が何かのきっかけで心を和ませ子供にお菓子を買ってやる気になる、それがあの柔らかな感じの理由だったように思う。
幼稚園を回りながらなぜ自分はこれほど通園路にこだわるのかと考え、そんなことを思い出した。通園路はできるだけゆったりのどかな方がいいと無意識に思っているようだ。その思い込みには従ってみるべきだと思われた。何しろ幼稚園では楽しかった記憶などないのに、通園路のお菓子屋さんとそのときの母親のことは柔らかい記憶として思い出すことができるからだ。
朝食をとってから改めて申込用紙をもらいに出かけた。園長先生に抽選のことを尋ねると、このままならおそらく抽選にはならないだろうという答えだった。感じのよい方だった。これで多分、私立の幼稚園は選択肢からはずれるだろう。あとは国立が残るばかりだ。