指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

サーバがとんだ。

昨日の朝から会社の独自ドメインを持つメールアドレスすべてで送信も受信もできなくなった。最近ADSLの調子がひどく悪く、つながったりつながらなかったりが頻繁に繰り返されるのでそのせいだと思ってほっといた。でもそのうち他の社員から、送受信の際に見たことのないエラーメッセージが出ると言われて初めて何かが変だと気づいた。自分で試してみると、確かに見たことのないエラーメッセージを普段使っている「Becky!」というメールソフトが返してよこす。テキストエディタを立ち上げてそのエラーメッセージを写し取り、独自ドメインではないメールアドレスからサーバ業者にメールで尋ねた。
一時間と少しで業者から会社に電話がかかって来た。これまでにも何度かエラーや質問などで問い合わせをしたが、サポートの電話番号が明示されていないのでそれらはすべてメールによっていた。返事もすべてメールで来ていて、先方から電話がかかって来るというのは初めてだった。緊急を要するいやな知らせであることが瞬時に察せられた。
サポートや営業でなく技術者からの電話のように思われた。丁寧なことは丁寧なんだけど、声に張りが無く敬語にもぎくしゃくしたところが感じられた。聞き取りにくいその電話でわかったことは、サーバのハードディスクがいかれて交換の必要がある、ついては作業に要する1〜2時間の間、サーバを止めることになるがよいだろうか、というものだった。確かにハードディスクである以上それはいつかは壊れる。でも再契約に応じてサーバを一新してからまだ2年しか経っていない。それより何より、今あるデータはいったいどうなるんだ?
データはどの程度復旧できるかと尋ねた。それはよく見てみないとわからないということだった。うまく行けばある程度はサルベージできるし、最悪の場合はローカルに保存してあるバックアップデータで復旧してもらうしかない。「その場合は一から再構築していただくより他にありません。」と彼は、(村上春樹さんぽく言うと)言いにくそうに言った。
でも事ここに及んでは責任の追及など二の次ということになる。現に今もメールのやりとりができないことでどんな影響が出ているかわからないのだ。とにかくできるだけのことをやってみて欲しい、と頼んだ。たとえ最悪の事態になってもハードディスクが正常に戻りさえすれば、後はこちらでやるから、と。
かなり暗い気分だった。もしハードディスクがまっさらになってしまったら、ディレクトリの切り直しやメールアドレスの再登録、四つのサイトの復旧(特にcgiの復旧)などでどれくらいの時間が取られるかわからない。中でもバーチャルドメインの設定はものすごく面倒だった憶えがある。しかも面倒だったことは憶えているのに、具体的な手順はひとつも思い出せない。丸一日では終わらないかも知れない。でもとにかくそうなっても構わないくらいの腹のくくり方が必要だった。
結果から言うと、データはかなりな部分が引き出せたらしい。まだ全部チェックし終えていないが、少なくとも現段階までに気づいたところは、割と簡単に復旧できた。メールも設定抜きで使えるようになった。古いハードディスクを一週間つないでおきます、と作業完了を知らせる電話で彼は言った。その間に引き出せるデータは引き出して下さい、と。一週間後彼はまた電話をかけてくる。そのときには彼に今回の原因を、場合によっては結構執拗に尋ねなければならない。