指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

一読じゃだめかも。

ベルカ、吠えないのか?

ベルカ、吠えないのか?

この本を読み終えるのにいったい何日かかったかわからない。細切れの時間をつづり合わせて読み終えた感じだ。そしてそういう読み方にはまったく適さない作品のように思えた。それはたとえば目の前に描かれているイヌの背負う血筋をもっときちんと記憶し鮮明にイメージできていたら、作品から受け取る感興もより強いものになったのではないかという思いに表れる。まとまった時間の中で一気に読むと一層おもしろいに違いない。
文体がすごい。ハードボイルドと言うか、歯切れがいい。対象が過不足無く突き放されていて硬質だ。それがたまに挟み込まれる情感に満ちた言い回しを効果的なものにしている。また、作品内で守られている叙述のルール、叙述のための取捨選択のルールが強固で、その磁力の中で叙述されたたいていの事柄は信ずるに値するようになっている。ピッチングで言えばストライクゾーンを上下左右いっぱいいっぱいに使いながら、100球投げ終えてもボール球はひとつもないといった感じだ(実際にはボールくさい球も何球かはあるんだけど、それが逆に作品の魅力みたいに見えてしまう。)。ここにある書き方以外には、どんなやり方でもこの小説を書く書き方はあり得なかった、そんな動かしがたい文体になっている。
でも本屋大賞の何番目かに入るほど一般ウケする作品とはどうしても思われない。一読して十全に理解できる小説とも思えない。もっとも、そう思うのは人並みはずれて歴史に興味のない自分自身のせいかも知れない。