指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

スタジャンが欲しい。その2

(承前)
池袋西武へ向かう道すがら、家人の思惑と僕の希望とは微妙に食い違っていた。また僕自身も自分が何を求めているかきっちり把握できずにいた。スタジャンは確かに欲しいが、結構な金額で購うそれは結局遊び着にしかならない。もし外回りにも使えてカジュアルにも着られるアイテムが見つかるのならその方がいいのではないかというさもしい心根が見え隠れしていたのだ。それに対し家人の思惑はもっとシンプルだった。とりあえず似合うものを買うこと。
最初に目にとまったのがニューヨーカーの深いぶどう色のジャケットだった。カントリーっぽい上品さをかもしている。週日の午前中とあって店員さんもかなりの気合いを込めて迫ってくる。試着してみた。自分でもあまり似合っているとは思わなかったところへ、家人が笑みを浮かべて同じ感想をもらした。思ったより似合わないね。これが店員さんの何かに火をつけた。嫌みにならないようその商品の良さを並べ上げた後、気に入らないのならこっちはどうか、という持ちかけ方で襟だけがコーデュロイのオレンジ色のジャケットを勧める。試着してみたが前者よりは若干マシという程度だ。結局ニューヨーカーは駄目ということにした。以下はフォロウだけど、僕はニューヨーカーというブランドが好きだ。ブレザーは三着連続でニューヨーカーのものを買っているし、今春のシャツやネクタイのコレクションもすごくよかった。少なくともオーセンティックなアイテムに限れば、ニューヨーカーの製品に失望したことはない。これからも期待を裏切らないで欲しい、と思う。
次にJプレスを見に行ったが、試着したいものすらなかった。フォロウばかりだけど、これはあながちJプレスの責任とは言えなくてこちらの好みが変化したことにもよっている気がする。アイヴィールックをそのままでは着こなせない時代と体型とを負っているので、Jプレスがいかに努力して時代に追いつこうとも僕は僕でまた違った道を模索しているのだ。
話を元に戻してスタジャンなんだけど、買うならJプレスと思っていたのにショップにはスタジャンは見当たらなかった。二重襟で身頃はネイヴィー、袖は金色に近いベージュの革で、胸にひとつだけエンブレムのついた往年のJプレスのスタジャンは、多分スタジャンのもっともシンプルな完成型だった。初めて見たときすごく欲しいと思った。でも買わなかった。そのことを今でも軽く後悔している。店員さんに尋ねると、Jプレスではすでにスタジャンの販売を終了したとのこと。