指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

二冊で一冊。

みんな元気。 (新潮文庫)

みんな元気。 (新潮文庫)

スクールアタック・シンドローム (新潮文庫)

スクールアタック・シンドローム (新潮文庫)

文庫化に当たってどうしてこういう構成がとられたのかはわからないけど、この二冊を揃えると単行本「みんな元気。」に収められた五つの作品と文庫書き下ろしの「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」が読めることになっている。僕にはそのどれもが何らかの意味で寓話であるような気がする。
表題作「みんな元気。」で家族の一員が強引に別の家族の一員と交換させられてしまうことをめぐって巻き起こる主人公たちの反応や抱かされる情緒、「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」の死ぬとわかっている女の子を救えない無力感の中に生まれる諦めなどは、どこかで自分も経験していると思わせる普遍性を持っている。作品の中では、想像もつかない異界の方から突然やって来る理不尽で圧倒的な暴力が主人公たちにそういう思いをさせることになっている。でも暴力というのは元々が突然で理不尽で圧倒的なものだ。だから作品の中の暴力がどれほど異様に見えようとも、それは現実に僕たちを取り囲んでいる暴力のアナロジーとなり得るし、そうである限り主人公たちの反応が共感をともなって読者の許に届くことになっている。奇妙な話なのに読者に向かって回路を開いているところが、寓話と感じられる理由だという気がする。でも本当はもっと深く読めば寓話の隅々にまで、より理解が行き届く気もするけどね。
それと表面上はどうあれ舞城さんの描く家族は意外とまともなんじゃないかと思われる。少なくともそれほど壊れてはいない。壊れていてもそれを赦してはいない。