- 作者: 角田光代
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/10/10
- メディア: 文庫
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ただしここにはひとつ落とし穴があって、物語の流れというのはもしかしたらそれ自体の内的な構造をしっかりと与えなければ成り立たないのではないかということがそれだ。それを時間の流れで代用した物語は、僕自身が時制にこだわって生活を物語化したものとまるで同じようにどこか投げやりでゆるい物語にしかならない気がする。生活を物語化したものはあくまで記録であり忘れないよう書き留めておくことが第一義であって、それにどんな意味があるかを考えることはとりあえず先送りされているからだと思われる。記述のひとつひとつにどんな対応関係がありそれがどのような意味をもたらすか、たとえばそういうことを綿密に考えない限り、独自の内的な構造を伴った物語の流れというのは実現されないのではないかと、おぼろげにそういうことが言いたい訳だ。
「対岸の彼女」を読みながらそんなことを考えた。ストーリー展開としてはすごくおもしろい小説だがどこかがゆるんでいる感じがしてそのゆるみ方を説明しようとして上記をでっち上げた。
葵とナナコは対岸に分かれてしまったが小夜子と葵は小夜子の勇気のために対岸に分かれずに済んだ。ナナコはなぜ消えてしまったのだろう?それは葵の心の中での裏切りにナナコが気づいていたからとしか思えない。