指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

雪について。

予報通り雪になった。雪だろうが何だろうが室内プールは同じような環境が保たれているのでその気になれば泳ぎに行くことはできたし、実際そうやって子供の気晴らしをしてやりたかったが当の子供が何日か前から咳をしていてとりあえず今日のところは見合わせた方がよさそうに思われた。もっとも気晴らしなどしなくても朝窓越しに雪景色を眺めて以来子供はえらいハイテンションだ。その何となくわくわくする感じには僕も憶えがある。朝食後子供は買ったばかりのWii版「大乱闘スマッシュブラザーズX」をやるのを雪で外へ出られないための特別措置として家人から許された。同じ時間、僕はファミスタDSをやっていた。最初二十試合近く連敗したが守備をオートモードにしてからは好調で勝率は六割を超えた。
家人が買い物に出られず昼食の用意が何も無いと言うので昼前に近くのコンビニに買い出しに行くことにした。朝からわくわくしているのに一歩も外に出させないのもかわいそうなので子供も連れて行った。外へ出てみると雪は水分を含んで重く、アスファルトは雪と言うよりシャーベットが溶けたようなかなり水っぽいかたまりにおおわれていることがわかった。案の定歩き出してすぐに子供のズボンの裾が濡れて濃い色になった。さっさと用を済ませて帰ろうと思ったが子供はどうしても近くの公園に行くと言って聞かない。数年前もっとさらさらの溶けにくい雪が積もった日、今より小さい子供を連れてその公園に行ったことがあった。そこでしばらく遊んで楽しかったことを子供は憶えているに違いない。彼の中では積もる雪とその公園がセットで記憶されているのだ。
でも公園はシャーベット半分雪半分という有り様だった。子供の言うかまくら、却下、雪だるま、却下、雪合戦、却下だった。上層だけ雪がおおう水たまりに踏み込んで子供の靴はすでにびしょ濡れだ。降ってくる雪も温度が低いのですぐに溶け、子供の帽子も顔も濡れている。子供が咳き込む。
びしょびしょの雪と自分より弱いものの病気。宮澤賢治の「永訣の朝」を思い出した。

あめゆじゅとてちてけんじゃ

・・・あ、このオチ、まずいですか?