指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

二冊の児童文学まで。

恐竜の谷の大冒険  (マジック・ツリーハウス (1))

恐竜の谷の大冒険 (マジック・ツリーハウス (1))

子供向けの世界名作全集を知り合いにもらって繰り返し読んでいたのは、小学校1年生から2年生にかけてのことだったと思う。「家なき子」とか「母をたずねて」とか「にんじん」とか「フランダースの犬」とか「アルプスの少女」とかを何しろ何度も何度も読んだ憶えがある。父親の仕事の関係で数年ごとに引っ越しをしたので、記憶の中の場所がどこかを特定するとその時期も特定できることになっている。少し切ないが今となっては便利だ。
それとは別に、同じ頃本棚に坪田譲治作「風の中の子供」があった。白いハードカバーの装幀でさすがに出版社は憶えていない。なぜそれがそこにあったかもわからない。誰かにねだって買ってもらった気もするが、それを選んだ理由が今ではまったく想像できない。それは先の世界名作全集に比べると今ひとつ近寄りがたい一冊だった。ルビはついていたものの漢字が多かったせいかも知れない。文章に多少古いところがあったせいかも知れない。あるいはテーマの異様な暗さのせいだったかも知れない。何でこんな暗い話を子供に読ませる必要があるんだろうという気がした。でも結局は何度も繰り返し読まれることになった。
同じ部屋で学研の「1年の科学」や「2年の学習」を毎月読んだ。幼稚園のとき買ってもらった名作絵本100冊セットや12巻ものの百科事典も読み返した。学校の図書館で借りてきた本も読んだ(恐竜とか星とか科学ものが多かった。)。とにかく暇があれば何か読んでいた。でも今思い出して一番強く印象に残っているのが「風の中の子供」だ。その本質的な暗さが、物語とはかくあるもの、というそれまでの思いをくつがえしたせいだった。それに比べれば「にんじん」や「フランダースの犬」の暗さなどお子様向けに調整された暗さに過ぎなかった。
僕が上京してからも引っ越しを繰り返した実家にはもうその本は残っていない。その本どころか子供の頃僕が持っていた本はおよそ一冊も残っていない。そのことを恨みに思わない訳でもないけどまあ仕方ない。
昨日「風の中の子供」を家人が図書館で借りてきてくれた。夕食後に読み始めたら止まらなくなって「風の中の子供」と「お化けの世界」の二編を立て続けに読んだ。暗いばかりでなく、子供らしい情緒のあり方をすごく丹念にうつしとった作品でそのことに驚いた。そして子供の頃無意識にここに惹かれていたんだなと納得した。
最近、学校で友達から紹介されたということで、子供が「マジックツリーハウス」シリーズを読み始めた。とにかく売れているらしく、ポケモンカードといいこのシリーズといい、メディアファクトリーはいいなと思ったけど、どちらも結構ロイヤリティーが大変かも知れない。どんなものかと思って一巻目を読んだ。確かにシンプルでわかりやすくスリリングなところもないではないけど、物語としてはぎすぎすにやせていて滋養に乏しい感が否めなかった。でも子供が興味を持ったものに対しては基本的に拒絶しない方針なので、読みたいのなら全巻読めばいい。その後ならたとえ「ハリー・ポッター」だってずっとおもしろく読めるはずだ。「風の中の子供」にはよほどのことがない限りたどり着けないかも知れないけど、それでも僕の方からこれを読めと子供に勧める気はない。