指栞(ゆびしおり)

すまじきものは宮仕え。

芥川賞らしい作品。

終の住処

終の住処

相次いで近年の芥川賞受賞作を読んで、「八月の路上に捨てる」についてはまだ感想とか書いてないんだけど、どれも読みやすくておもしろいなと思っていた。もうひとつ思ったことがあってそれはどれも生活実感に根ざした作品だなということだった。芥川賞の選考基準とかまるで知らないし選評も読まないけどもしかしたら選考のスタンスが微妙に変わって来ているんじゃないかとぼんやり感じていた。そんな感じなんて、おおっぴらにするほど当てにはならない気もするけど。
でも「終の住処」は個人的に持ち続けていた芥川賞のイメージにすごく合った作品に思われた。この作品は何だ、と自問すると、生活も含めた自己の存在全般に関する疲労と、もしかしたらその大きな理由になっているかも知れない女性という性全般に対する違和が描かれていると、今の自分には言いうるし、またそうとしか言えない。
よくわからないところなんだけど、そもそもこういう成り行きでこういう女性と結婚することがあり得るんだろうか。あるかも知れない。自分にだってそういう可能性はあったかも知れない。ただそのためには僕は今よりもうちょっと疲れていなければならなかったように思われる。生活に疲れるというよりもう少し深く存在に疲れると言うか、自分が存在することそのものに疲れていたとすると、もしかしたらこういうどう見ても破綻した結婚に踏み込んでいたかも知れない。そのわずかな可能性に両手をかけて強引に押し広げると、主人公の置かれた位置がもっとずっと普遍的になるような気もする。あるいはこういう状況を特に苦もなく自分のこととして受け入れられるような結婚生活というのが今このときも実際にあるのかも知れない。あったとしたらそれは本当に荒涼とした心象じゃないかと想像する。
もうひとつあってそれは作者はある時代固有の雰囲気にすごくこだわっているんじゃないかということだ。併録された短編「ペナント」を読んでから「終の住処」を振り返ってみてそれを感じた。