- 作者: 橋本治
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2008/02/20
- メディア: 文庫
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でも橋本さんの文体は新しい風俗を扱うにはどこか古風な感じを抱かせる。たとえば自分で何かを物語ろうとするとき一番取っつきやすいのがこうした文体のような気がする。でも実はこの文体は自分で扱うにはなかなか厄介な代物で、どこまでもずるずると書けてしまうかわりにできあがったものはめりはりのないぐずぐずに煮崩れたものになり勝ちだ。もともとが言葉を対象化しずらい俗な文体なので、何か別のものを常に追加しメインテナンスしておかないと読めるものにはならない。じゃあ橋本さんが何を追加しメインテナンスしているかと言うと、それについてはこれから考えることにする。
ただ「明暗」の頃の夏目漱石の文体みたいだな、と何回か感じた。「明暗」はページの中に3Dの透視図を詰め込んだような、立体的な文体で書かれている。心の構造がある奥行きとふくらみを持って読者に感得される。ここをこう押せば、こっちのここがこう変化する、といった密に有機的な文体だ。そこまで密度は高くないけど橋本さんも同じ方向を向いた文体を採用しているように思われる。
これじゃあ漱石も橋本さんももともとが俗な文体で作品を書いていると言っているのも同然だが、そこからどれだけ文体が磨かれたかが言うまでもなく作品の価値なのだ。それにしてももろそうな足場で結構アクロバティックなことがおこなわれているなあ。すごいなあ。小説ってもともとこういうものかも知れない、と思った。「白菜」のすずちゃんがいい。
あと、女の人って結婚してからもこんなに孤独なんですか?家人が日常こんなに孤独だったとしたら、僕はかなりショックだ。結婚してごめんなさい、とまで思うと思う。