指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

世界をつくる。

失われた町 (集英社文庫)
三崎さんの作品としてはこれまで読んだ中でいちばん長かった。ひとつのテーマを扱った短編連作で、カンバスの上に何度も重ね塗りされたような厚みのある物語だった。ただ、三崎さんは物語をつくるよりもあるひとつの世界のあり方をつくり出す方が得意なんじゃないかという気がする。厚みではなく高低差によってつくり出されるべき物語のダイナミズムが欠けているようにどうしても思われてしまう。ここにあるのは世界の広がりに沿って水平に展開して行く物語だ。物語の高低差が、それが展開して行く舞台である世界の起伏以上に激しくなることは滅多に無い。作者は高低差に不足を感じると、物語をつり上げるのではなく世界の起伏を複雑にすることで切り抜けようとする。それが後出しジャンケンのように世界の設定が後から追加され更新されて行く理由のように思われる。そこは読んでいて不満に感じられた。
もうひとつ不満なところがあるんだけど、それには目をつぶって最後まで読むと、それなりの達成と言うか、作者の意図した結末にたどり着けることになっている。そこには、すごく独創的とは言えなくとも少なくとも読者の心を揺らすに充分な力が感じられる。ただその力を受け取るために払う読者の負担が、ちょっと大き過ぎるように個人的には思われた。