指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

短編の読み方。

ゴランノスポン 町田康著 「ゴランノスポン」
なんて言うか短編の読み方が変わったことに自分なりにはとてもこだわりがあるんだけど具体的に何がどうしたということがうまく言えない。感じで言うとすっと入ってすっと出て来るということになると思う。そして入って行ったときと出て来たときとの間にずれと言うか違いと言うか、体が移動したような感覚があればそれで良しとする。良しとするというのも曖昧なんだけど要するにそれは理屈と言うよりは物理的な移動に近い感じだ。その感じがあればそれ以上のものを求める必要が無いみたいなことを言いたいらしい。難しい。
どの一編もが意外な転換を秘めているこの短編集は、優れた短編集だと言えそうに思われる。と書いてみて、そうか、大切なのは転換なんだなと気がつく。何かがひっくり返る。転換する。すると読み始めた位置と読み終えた位置の間に確かな距離が感じられる。それが大事なことだという気がする。何が転換するかと言えばそれは作品を支える倫理だと思われる。その倫理はもちろん作者の生のものとは限らないけど、少なくとも作者が発見しあるいはこしらえて作品の中に生かしたものだ。それらの倫理はあるときはまっとうなものに思われるし、あるときは胡散臭い。でもそれらをしっかり握りしめていさえすれば、読み終えたときあなたは別の場所に移動させられていることに気づく。それが優れた短編であればということだけど。以上、間違っているかも知れないけど、少なくとも今まででいちばんうまく言うことができている気がする。