指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

北杜夫さんが亡くなった。

どくとるマンボウ青春記 (中公文庫 A 4) 北杜夫著 「どくとるマンボウ青春記」
北杜夫さんが亡くなった。北さんと言えば何よりも「トニオ・クレーゲル」だと思う。僕も一時期北さんの影響の下に「トニオ・クレーゲル」を耽読した。それどころかドストエフスキーを集中的に読んだのも、大学に入って専門の勉強はせずにひたすら小説に読み耽ったのもみな北さんの影響だった。こういう言い方はどうかと思うけど、北さんは神が額に刻印を押したような、天才的な文学の創作者ではなかった。それでいいと思う。北さん自身もそれでいいと思っていたと思う。境界にいることがすべてのトニオ的な者たちの宿命だし、北さんもそこに自分の居場所を見出していたことはほぼ確かだと思われるからだ。もしかしたら父親が天才的だったために自分をトニオ的な位置に置いたのかも、とも賢しらに思うけど、それはあまりに図式的過ぎる気もする。
青春記がいちばん好きだと思っていたので追悼の意味も込めて読み返している。でも他の作品も好きだった。「さびしい王様」、「さびしい乞食」、「さびしい姫君」の三部作、「天井裏の子供たち」、「奇病連盟」、「少年」、それに傑作「どくとるマンボウ航海記」。不思議なことに芥川賞をとった「夜と霧の隅で」とおそらく代表作になる「楡家の人々」は読んでいない。これから読もうと思う。