指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

何度もとらえ直す。

パラレル (文春文庫) 長嶋有著 「パラレル」
著者初の長編小説ということで、なんて言うかこの作者特有の人を食ったような余裕が窺えなかった。いっぱいいっぱいとまでは言わないけど今この作者を特徴づけている(と僕が勝手に思っている)個性みたいなものが希薄な気がした。ただ主人公が周囲の誰もを何度も何度もとらえ直し続けている様子はとてもよく伝わって来た。津田という友人、別れた妻、新しい恋人、津田のもとの恋人。主人公はその誰をもきちんとわかったとは思っていず、相手の新たな面を発見しては全体像を修正し続けているように見える。それはもしかしたら主人公の属性と言うよりもより作者自身の属性なのかも知れないと思った。あるいは小説よりもより現実に近い関係のあり方なのかも知れないと思った。そういうことを描くことでおそらくこの作品は幾分か読みづらいものになっているんじゃないかと思う。でもそういうややまだるっこしい誠実さは、またもう一方の作者らしさに通じているように思われた。
ところでアイルトン・セナについて、「言動は紳士。走りは正確。いかにも優等生に見えた。」という記述があるけど、一面的過ぎると思う。主人公と僕は同じ時期に同じ中継を見ていたはずだが、僕のセナに対する解釈はかなり違っている。