指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

手を広げる。

 

  ディスコに通っていた時期は短い。1983年の春から半年くらいだ。その年は浪人二年目で六部屋あるまかない付きの下宿に前年から住んでいた。四畳半が階下にふた部屋階上に四部屋でお手洗いは共同で風呂はなかった。各部屋のドアに簡単な鍵はかかるけど要するに一つ屋根の下という状況で他の部屋の住人は全員大学浪人で同じ穴のムジナと言うか仲が良かった。そのうちのふたりにディスコに行く習慣があり誘われてついて行ったのがきっかけだった。もちろん初めはうまくなんて踊れなかったけど少し踊れるようになると大音響の中リズムに乗って踊るのは本当に楽しかった。これはディスコでしか味わえない楽しさだと今でも思う。ほんの少しのリズム感さえあればいい。最近初めは歌謡曲だったけどだんだん洋楽に移って行った古い曲の聴き直しの中でその頃踊った曲、それから音のクリアなFM放送をラジカセに録音して何度も聴いた曲をある程度まとめて聴き直したいと思うようになった。それで図書館のサイトで検索してるうちに上に掲げたおあつらえ向きの二タイトルを見つけて借りた。タイトルを眺めるだけでわくわくしてくる。Cyndi Lauperの「Girls Just Want to Have Fun」。出だしから超ハイテンションでこれほど元気が出る曲は他にない。Michael Jacksonの「Billy Jean」。今聴くと情報量がすごく多いことがわかる。リズムの厚みがすごくてそれがあの「Thriller」というアルバムの魅力だったんだな、新鮮に聞こえたんだなと思う。マイナーな曲だって収録されてる。Deniece Williamsの「Let's Hear It for the Boy」。これらのCDを聴くまでこんな曲があることも忘れていたけどしっかり耳に残っていたし今聴いてもすごく楽しい。Matthew Wilderの「Brake My Stride」は英米の新譜ばかり流すNHK-FMの地味な音楽番組でRomanticsの「Talking in Your Sleep」と同じ日に録音したんだと思う。前者が終わると耳の中で無意識に後者のイントロが立ち上がる。前者は「思い出のステップ」という邦題でまずまずヒットした記憶があるけどRomanticsの方はどうだったんだろう。ロング・バージョンがリリースされてたような気もするけど。でも二曲ともとてもいい。それからTeri Desarioの「Overnight Success」。これは日本でだけヒットした曲だったと思う。SONYのすごく印象的なCMのBGMに使われていたからだ。でも検索してみると当時の曲を集めたオムニバス・アルバムにはこの曲を収録してるものが結構見受けられる。確かにキャッチーでかわいらしい曲だと思う。

 ディスコに行かなくなったのは下宿の全員が大学に受かって別々に暮らし始めたからだ。それ以来誰とも会ってない。大学の友だちは誰もディスコになんて興味がなくてひとりで行くのもなんだか変で行かなくなってしまった。このディスコ時代にはもうひとつ自分なりの大きな事件があったんだけどそれについてはまた。