指栞(ゆびしおり)

すまじきものは宮仕え。

ないときは我慢できる。

 前にバイトしてたスーパーでなんとなく仲良くなった部署の違うおじさんがずっと自営業をやって来た実感としてお金がないときは我慢できるんだけどあるときは我慢できないんだよねという話をあるときしてくれてほんとそうだよなと思ってすごく共感したことを覚えている。ほんとにその通りでないときは欲しいものももったいないと思って我慢できるんだけどちょっと余裕が出てくるとまあいいかと思って買ってしまう。浮き沈みの激しい自営業に従事する者ならではの実感だと思う。しかもこの場合妻子がいればやはり妻子と言うかもうはっきりと子供が優先でその次が妻で自分は後回しということにどうしてもなってしまう。もちろんそうじゃない人もいるかも知れないけど。

 五月は退塾者ひとりに対し入塾者が四人で受講料を徴収してみるとなんとなく金銭的に余裕ができている。その上子供の授業料も減免になることがわかり手はつけないけど奨学金も入って来てるので何年かぶりに豊かな感じだ。年度末に受験生がごっそり抜けるので今のままなら危機的状況に立たされることになるのは明白だけど五月に四人入ってくれたんだから六月も七月も少しは入塾者があるかなと楽観的な気分にもなる。それでつらつら考えてみて目にする度に食べたいなでも高いからもったいないなとずっと我慢してきたものを思い切って買って食べてみることにした。手始めはカキ。オイスターの方のカキ。これは先週成城石井で見つけておいしそうだと思ったカキの燻製で本体599円かな?個人的にはかなりぜいたくな価格帯だ。普段は278円のマグロの刺身を子供と分けて食べてるんだから。もともとシーフードは大好きでホヤを除くと大体なんでも喜んで食べる。ずっと以前は冬の鍋物にカキを入れてもらってたこともあったけど新婚で家人もいろいろと僕に気を遣ってくれてた頃のお話でいつからかお互い必要以上に気を遣わなくなった上に土台用意が比較的楽と言ってた鍋物でさえつくらなくなったのでカキなんて下手すると二十年近く口にしてないかも知れない。海産物が驚くほどおいしい土地に生まれながら家人があまり好まないということも大きい。という訳でまるで永久に死角に入ってしまったかのようにカキなんて目にしても見えないも同然だった。でもなんか元気も出そうだしと思って一応家人に許しを得てから買ってみた。食べるか訊くと案の定食べないと言う。子供が食べるかなと言うとご褒美と思ってひとりで好きなだけ食べたらと言うのでお昼前に一杯やるときアテにして食べた。うまい。すごくうまい。ああこんなにもうまいもんだったんだなと大げさでなくしばし感慨に浸る。

 ということで週に一回くらいちょっとぜいたくなものを食べようかと思う。とりあえずカキの味が忘れがたいので来週も同じものになりそうな予感。ちなみにお裾分けとして家人には臨時のお小遣いを一万円あげた。気持ちだけだけど。