指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

村上春樹ライブラリー、三度目。

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 三度目の村上春樹ライブラリー。すばらしく天気のいい日で心も晴れ晴れする中出かける。セーターやパーカを着て行くと暑いかも知れない陽気なのでギンガムチェックボタンダウンとチノパンとスーパースターにバックパック。大学のいちょうはだいぶ紅葉が進んでいる。うちの近くはまだほとんど青々としてるけど。10時15分からの予約で数分早めに到着すると女性の係員さんが挨拶をしてくれる。手首で検温してアルコールを手にとり受付で入館証を受け取る。今日の目的ははっきりしてるので一階の長テーブルのところへ行き「全作品」の三巻目を手に取っていすに座り開く。単行本未収録と前回知った「雨の日の女#241・#242」を読む。お客さんが何人か歩き回っていて中には言葉を交わしてる人もいるので最初は気が散る。でもだんだんと読書に集中する。初期の村上さんらしいすごく感覚的ではっとさせられるように鮮やかな比喩に満ちたちょっとだけ不思議な作品。読み終えた後「自作を語る」だったっけな著者の解説みたいな小冊子のこの作品に触れたところを読み直す。そしてなるほどと思う。それから本を箱にしまって立ち上がり棚の元の位置に戻し四巻目を手にしていすに戻る。四巻目の収録作は「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」。小冊子にはこの作品の成立に関するお話が載っていて読んでてとても興味深い。「街と、その不確かな壁」のタイトルはよく知っている。でも読んだことはない。「全作品」を編むに当たって版元からこの作品も掲載したい旨申し出があったそうだ。でも作者はそれに反対したとのことでもしかしたら併録されてるのかなという淡い期待はここで砕かれた。「文学界」誌のバックナンバーを当たるしかないようだ。それと日本では「世界の終わり」というタイトルにならないかという打診を受けたのに対し英訳の際は「ハードボイルド・ワンダーランド」だけにならないかとの打診を受けたというお話もおもしろい。書き上げて奥様に読んでもらったら後半は書き直した方がいいんじゃないと言われものすごく腹が立ったけど結局書き直したというのもすごい話だ。ちなみに「全作品」に入れるに当たっては一部に書き直しが行われたとのこと。これは本編には立ち入らずに棚に戻し五巻目に移る。「カンガルー日和」と「回転木馬のデッド・ヒート」その他の短編が収録されている。もっとも作者によるとこの二冊の収録作は小説ではないということだ。少なくとも作者の考える小説とは異なっている。どこがどう異なってるのかを説明することは言うまでもなく僕の手に余る。ただ個人的にはどちらも本当によく読み返した大好きな短編集だ。小冊子を読むとそれぞれの成り立ちの事情がわかる。どちらも連載をまとめたものでそれは村上さんにとっては珍しいこと。「回転木馬・・・」の方はリアリズムの文体を練習するために聞き書きという体裁をとっているがほんとはすべてフィクションであること。(そうじゃないかとは思ってたけど。)その文体の先に「ノルウェイの森」があることなどなど。という訳で一時間十五分ほどいろいろ考え考え本を読んでから地下に下りてお手洗いを借りてカフェに寄る時間はもうなかったので入館証を返して外に出る。すごく充実した時間を過ごしたような気がする。次に来る前にバックパックじゃなくてもっとコンパクトなバッグを買おう。本を読むのに置いとく場所がなくて邪魔だし。