指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

調子がよくない。―村上春樹ライブラリー十回目。

 VANのダッフルコートを着て村上春樹ライブラリーへ。紺のギンガムチェックボタンダウンに臙脂のクルーネックセーター、濃いベージュのチノパンにネイビーのダッフルコート、早稲田の歴史館のミュージアムショップで買ったスクールマフラーにアディダスのスーパースター。個人的には非の打ち所がないと思う。ダッフルコートを着てキャンパスを歩くのは三十数年ぶりのことだ。そう思うとなんだか感慨深い。今は三十数年前より頻繁に大学に通ってる気がする。12月は週二回ペースだしそんなにまじめに講義に出たことなんてたぶんなかった。そりゃ二浪くらいするわな。
 二番目に顔見知りになったスタッフさんが検温してくれる。アルコールで手を清めて受付すると今日の入館カードのナンバーは27。いつもの部屋には何かの取材らしく大型のカメラが入っている。さっきのスタッフさんが近づいて来て撮影が入ってるがテーブルの奥の方なら本が読める旨親切に教えてくれる。それで奥側の席に陣取って「村上春樹全作品1990~2000」の七巻目の解題を開く。この巻の収録作は「約束された場所で」と「村上春樹河合隼雄に会いにいく」のふたつ。もう二十年以上も前の作品なんだな。でもひと通り読み終えても今ひとつ心に響くものがなかった。あまり調子がよくなかったのかも知れない。涙が止まらなかった前回とはえらい違いようだ。それで本を読むのは諦めて地下に下りて行ってカフェOrange Catでジンジャーエールを頼んで飲む。レシートはご入り用ですかと問われてはいと答える。レシートをもらうのも目的のうちのひとつだから。ジョン・コルトレーンの演奏らしき「My Favorite Things」がかかっている。Orange Catにもオーディオセットが入ったことはツイッターで知ってた。でも僕が持ってるCDとは別の録音のようだ。同じならそうとわかるくらいにはよく聴いたから。ジンジャーエールは一瞬で飲んでしまった。それで一階に上がろうとすると僕が入館カードを首からはずして手に持ってたことに気づいた別のスタッフさんがお預かりしましょうかと言うので渡してそのまま地下から外に出る。ほんとは顔見知りのスタッフさんに挨拶したかったんだけどまあ仕方ないか。季節は秋から冬に移り変わろうとしている。それがひしひしと感じられる。