指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

「街とその不確かな壁」。

 新潮社からメールが来て村上春樹さんの今度の長編のタイトルが「街とその不確かな壁」だと知った。正直かなりびっくりした。オールドファンならご存じのように単行本未収録で「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」の原形とされる作品とほぼ同じタイトルだからだ。違うのはそちらの作品は「街と、その不確かな壁」と読点がついてることだけかと思う。読点一個あるかないかで別の作品もしくは同じ作品の別バージョンを指すということは村上さんの場合少なくとも「めくらやなぎと眠る女」で行われてることなのでそれと同じ事情なんじゃないかと推察される。つまり新作は読点付きタイトルの作品とは別物だということだ。個人的には読点付きの作品は読んでない。読んでみたいかと問われれば少しねと答えるだろう。でもさすがにちょっと古すぎるんじゃないかという気もする。それに作者自身が読まれることを望んでない節もある。
 新作はもしかして「世界の終わり・・・」と共通点のある作品なのかなあとも思う。「世界の終わり・・・」は今でもとても好きな作品なのでだとしたらうれしい。でもこの作者がそんな単純なことをするだろうかとも思う。ひとつもしかしたらそうなのかなと思われるのは作者が読点付きの作品にずっとこだわりを持ち続けていていつか書き直したいと願っていたんじゃないかということだ。たぶん「あとがき」とかは収録されないと思うから発表後のインタビューなんかを楽しみに待ちたい。もちろん作品も楽しみにしている。