指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

続報。

 この前書いたバイト先の年配君の続報。滅多に入らない午前中のシフトに彼が入ってたので今日は一緒に仕事をした。社員さんに特に頼まれた仕事をひとりで片付けてるとこっそり近くに寄ってきて声を潜めてこの前の掃除ロボットについてはその後社員から何か話があったかと尋ねる。何もないのでそう答えるとここの態勢は他とだいぶ違うので少しずつ直して行くしかないとか僕に言わせれば途方もないことを言い出す。その第一歩が掃除ロボットについて社員に入れ知恵することだった訳なんだろうか。なんだお前は。ピョートル・ヴェルホーヴェンスキーにでもなったつもりか。ドストエフスキーの「悪霊」に登場するこの扇動家はでもさすがに人物像としては誇大妄想的でいかにも古びてる。つまり年配君の発想法もすでに古くてそんなものが現代で通用する訳がない。更に続けてここには頼りにできる社員などひとりもいなくて問題を共有してるのは○○さん(僕のこと)と自分だけだと言うのでいやこいつ本気だわこりゃ着いて行けねえと思ってそれ以降はひと言も口を挟まず聞き流すことにした。確かにこの前はこの掃除ロボットの件でたたでさえ大変な仕事をさらに増やして欲しくないと社員も何人か参加してるバイト向けのグループラインに発言した。でもそれは会社に変わって欲しいとか社員に変わって欲しいとか考えてのことではもちろんない。大体僕はもう自分以外の何かに「変わって欲しい」とか思うほど若くもなければナイーブでもない。ひとりの一存ではいそうですかと変わるほど組織も他者も可塑的にはできていない。そんなことは身に沁みてわかってる。僕はただ納得の行かないことはやりたくないと表明しただけだ。それをなんかパルチザンの同志みたいに思われても単純に困る。できるだけ快適に仕事をしたいという僕の希望からすると今後この年配君はむしろこちらにとって結構大きな障害になるような気がする。この胡散臭さに誰も気づかないんだろうか。若いバイト仲間の中にはこの人に私淑してるのもいると聞くけど。この人は英語も話せるしその他いくつかの言語も堪能だそうだ。詳細は省くけど人にものを教える仕事をしている。いろんなことを知ってることが少し話せばわかる。でも僕に言わせれば薄っぺらい。知識は広いかも知れない。でも深みというものが感じられない。それは自己との対話が圧倒的に不足してるからじゃないかと僕には思える。実用書は読むけど小説は読まないんじゃないかなあ。もちろん邪推だけど。ただ前の会社の社長の薄っぺらさにすごくよく似ていてはっきりと苦手だ。普段他人のことをここまで悪しざまに言うことはない。でもそれは自分とは関係ないと思ってるからで向こうから接近してきそうな気配がある場合は自分なりに苦手な根拠を明らかにしておく必要がある。自分の身を守るために。
 遊んでる子供たちの姿を見て大人と違って純粋な笑顔でかわいい癒やされるとまた薄っぺらなことを言う。よくまあ恥ずかしげもなくそういうことが言えるな。悪いけどその子たちよりうちの21歳の子供の方がずっとかわいい。わざわざ口に出して言いこそしないものの真実とはそういうものだ。