指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

おなかが空く。

 小学四年生の夏。毎日のように学校の水泳クラブの練習に通った。そのことは以前にも書いたことがある。K先生という今から思うとすばらしい先生が担任のときで水泳クラブの担当教員のうちのおひとりもその先生だった。父親はその夏を境にお前の胸板が厚くなったとうれしそうに言ったことがある。まあごく幼い頃からずっと病弱だったので少しはたくましくなった様子の我が子を目にして安心したんだろう。自分が親になってみてその気持ちは痛いほどよくわかる。実際この頃を境に体質が変わったかのように風邪とかひかなくなった。それでひとつ今でも覚えてるのは泳ぐとひどくおなかが空くということだった。病弱だったので食も細くて母親は僕にものを食べさせるのに苦労していた覚えがかすかにある。お茶碗いっぱいのごはんが食べられなくて半分くらいで残そうとすると母親はじゃあ残してもいいからもうちょっと食べなさいと言う。それで我慢してあとちょっと食べるとそれしか残ってないんだから全部食べちゃいなさいと言う。そんな具合だから空腹ということがわからなかった。おなかが空くという感覚を体験したことがない。でもその夏ははっきりとおなかが空いたと言うことができた。泳ぐととてもおなかが空くんだとわかった。それでおせんべいとかスナック菓子とか持ってってクラブが終わった後に食べた。同じように何か食べ物を持って来た友だちと分け合ったりもした。それがすごくおいしくてすごく楽しかった。今はまた加齢のためか食が細くなりつつある。でもあの夏のように毎日泳ぐようになったらまたよく空腹を感じる。バイトの途中で授業の途中でおなかが空く。もちろん体重は増やしたくないしもともと間食の習慣というのが皆無なのでできるだけ食べずに我慢したいんだけどこれまで滅多に口にしなかったおかきとかクッキーとか気がつくと食べてて人が変わったかのようだ。プールで毎日体重を計ってるので少しでも増える傾向になったら考え直すつもりではいる。でもたくさん泳いだらおなかが空くのは当然だよなと心のどこかで思ってる気もする。今日はスイムはお休み。