指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

時間を間違える。

 朝泳ぎに行って三十分弱で九百しか泳げずでもまあしょうがないかと思いながらプールから上がりシャワーを浴びて体を拭いた後更衣室のカーテンを閉めて乾いた水着に着替え濡れた方はビニール袋に入れてロッカーにしまった。それから勤怠管理のシステムに出勤時刻を打ち込み詰め所に戻ってシフト表を確認して初めて自分が来るべき時間より三十分早く出社したことに気づいた。つまり仕事が始まるまでにまだ三十分ちょっと残されている。それでもう一度泳ぐことに決めてロッカーから濡れた水着を取り出しカーテンを閉めて着替え再びシャワーを浴びてからプールに入った。それで十分くらいかけてゆっくり二百メートル泳いだので今日のスイムは合わせて千百。いつもより出勤が三十分遅く設定されることがたまーにあって今日はそれに気づかずいつも通りの時間で動いたということだ。勤務時間を記す表の今日の欄に打刻時間間違えましたすいませんと書いておく。前にも書いた通りここは勤怠管理システムと手書きの勤務表の二種類に勤務時間を記録しなければならない。その上あろうことか勤務時間の計算には手書きの勤務表の方が優先される。なんのために高いお金(たぶん)を出してシステムを導入したんだかわからない。けどまあ僕が口を挟む問題ではない。好むと好まざるとに関わらずそれが現実だというだけのお話。
 この前バイトを辞めるA君とB君にお餞別のシャーペンをあげたことは書いた通りだ。そのときそばにいた男子学生が僕も欲しいですと言うのでバイト辞めるときにあげるよと答えた。でもなんかそれじゃあかわいそうな気もしたのでアマゾンからシャーペンが届いたことでもあるし一本あげようと思って今日持って行った。じゃあこれあげるからたくさん勉強してよと言って差し出すとこれってすごいいい奴じゃないですかと言うのでいや一本三百円だよと答える。すると大学も学部も学年も同じバイトの別の男の子の名を挙げて彼にもあげてもらっていいですかと尋ねる。図々しいとかそういう感じはまったくせず自分がもらえたんだから彼ももらえるはずだと天から信じて疑わない無邪気な感じに好感が持ててじゃあ持って来るよと答える。このシャーペンプレゼントは相手にとっては押しつけに過ぎない単なる自己満足かも知れない。少なくともそう考えるのが世界との比較的正しい距離の取り方なんじゃないかという気がする。だからだろうか相手から欲しいと言われたら嫌な気はしない。あるとき思いついてもう一年以上続けてるけどそれがどういう意味を持つ行為なのかは我ながらまだよくわかっていない。