指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

食べるを楽しむ。

 もともと胃はそれほど丈夫な方じゃなくて食後数時間経つとほぼ必ず胸焼けになるので健胃消化薬(とパッケージに書かれている。)は手放せない。加えて一時期は加齢の影響か夕飯なんか本当に食べられなくて適当なものをほんの少し食べるだけで済ましたりしていた。それが数ヶ月前に水泳を始めてからは食べる量が当たり前のように増えることになった。よくおなかが空くようにもなった。自分の中でしばらくの間虐げられてきた「食べる」という行為がそんな風に復権してみると改めてその行為のもたらす喜びみたいなものを再認識させられることになった。今は三度三度の食事を割に楽しみにしてる。調子が悪いときには食べたいものなんて全然思いつかなかった。今は割にあれが食べたいこれが食べたいと思うようになってる。もちろん高価なものじゃなくていい。それに家人の手をできるだけわずらわせないものがいい。安くて気軽に食べられてそれなりにおいしいもの。自分の狭い生活圏内でそんなものを日々模索しながら食べることを自分なりに楽しんでいる。
 今日レイモンド・カーヴァーの「ささやかだけれど、役にたつこと」を久々に読み返して強い感銘を受けた。この作品は数回読んでると思うけどこんなに心を動かされたのは今回が初めてだと思う。刊行されてからだいぶ年月も経つし今さらネタバレでもないかなと思うので書いちゃうとここで言われる「ささやかだけれど、役にたつこと」とは食べることだ。読んで今の自分の実感と本当におんなじだと思った。食べることは楽しい。そして言うまでもなくとても大切だ。この歳になっても落ち込むことってあるんだけど日常の強固さつまり食べることを楽しいと感じる「ささやかだけれど、役にたつ」力を見出し続けながら日々暮らして行きたい。なんか優等生の書いた作文みたいな締めくくりだけど。