指栞(ゆびしおり)

すまじきものは宮仕え。

高橋源一郎さんご推薦の「競馬小説」。

騎手マテオの最後の騎乗

騎手マテオの最後の騎乗

競馬には興味がないので高橋さんのエッセイのうちでも競馬に関するものは読んだことがない。「私生活」みたいにいろいろなテーマのエッセイが収録されているうちに競馬に触れたものがある場合だけ読んでいる。それでも競馬にすごく興味を惹かれるということはない。これは競馬に関するものだけど小説ということと、高橋さんが推薦しているということで読んでみた。

おそらく競馬にはいろいろな魅力があるんだろうと思う。ギャンブルだというだけで熱狂する人から、血筋とかいった歴史的な面に興味を持つ人、馬たちが演ずるドラマの雄々しさやもの悲しさに魅せられる人まで、様々な層があるに違いない。もちろんそれらのいくつかあるいは全部が好きだという人だっているだろう。その魅力のすべて、そして魅力を感じる人たちの姿すべてを想像することはさしあたって僕の力では不可能のように思われる。

ここに描かれているのは年老いた騎手(と言っても物語の最後ですら今の僕と同じ年なのだけど。)が感じる自らの衰えに対する悲しみと、それを何とか押し戻そうとする情熱と、情熱ゆえに思いつかれた驚くべき結末の物語だ。それらが、騎手自身の美しい倫理観に支えられながら無駄のないストーリーテリングで語られる。こうなって欲しいと望んでも無駄だ。そうはならないからだ。そしてそうはならないところにおそらくこの作品の最大の光源がある。

でも、と思わざるを得ない。その結末は信頼するに足るものなのだろうか。果たしてこういうことが起こりうるのだろうかと。これは僕自身の、競馬に対する無知が引き起こす疑問だ。物語が自身で物語のリアリティーを支え切れているかどうかが、無知のせいで判断できないのだ。個人的にはそこを「高橋源一郎さん推薦」の一言で、つまり物語の外部からのリアリティーで乗り切るしかなかった。高橋さんが信頼すべき読み手であることを疑ったことはないし、これからも疑うことはないだろうからだ。でも本当はそういう読み方は嫌いだし間違っているような気がする。