- 作者: 中上健次
- 出版社/メーカー: 角川学芸出版
- 発売日: 2005/07/06
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (14件) を見る
「路地」の消滅と共に物語の求心力を失った後、新たな磁力発生装置を求めるように中上さんが遠くへおもむいたことはおそらく間違いではない。その旅が当初中上さんが望んでいたような成功に結びつかなかったというのもありそうなことだ。そして「南回帰船」や「異族」の拡散と中断は、そんな中上さん自身の道行きを象徴してお誂え向きなように見える。研究者ならぬ一介の読者がどこまで踏み込んでいいのかわからないけど好きなだけ踏み込んでいいとすれば、そうした中上さんの心許なさを追体験するのが「南回帰船」を読む意味だ言えるだろうか。
でもそう書くとやはりかすかな違和感が拭いきれずに残る気がする。何か鼻持ちならないシステムに組み込まれてしまったような。要するに僕は「南回帰船」の表紙を初めて見たときから、余計なことをしやがって、と心のどこかで思っていたことになる気がする。読みたいようでいてほんとは読みたくなかったのだ。でも出版された以上は読まないわけには行かなかったのだ。