指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

カラマ三昧。

カラマーゾフの兄弟2 (光文社古典新訳文庫)

カラマーゾフの兄弟2 (光文社古典新訳文庫)

出張の疲れもあるだろうからと午前中から午後にかけて子供は家人が連れ出してくれた。それで午前中一時間かけて「カラマーゾフの兄弟」の二巻目の最後を、それからずっと三巻目をゆっくり読むことができた。二巻目にはイリューシャの話が出てくるし、大審問官もあるし、ゾシマ長老の長い独白(ただしアリョーシャの聞き書き、と語り手がくどいほどにことわっている。)もある。
「鳥のように獣のように」所収だったか、中上健次さんがエッセイの中でドストエフスキーの文体を通俗小説の文体じゃないかと書いていたのを思い出した。俺なら同じことをほんの数行で書いてやる、と。いかにも中上さんらしい言い方に思える。でもその後ドストエフスキーの草稿やメモを見てどれほど入念に作品がつくられたかを知って自分が今手がけている長編が難破するのではないかと不安になったとも記されていた。
カラマーゾフ三昧の今日、中上さんのもっともな言い分を思い出しながら、それでもドストエフスキーに肩入れするのは、この混乱した文体でしか表せない世界があってしかもそれがかけがいのない世界なのではないかという気がするからだ。キリストは最後まで黙して答えない。