- 作者: 町田康,荒木経惟
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2004/12/23
- メディア: 文庫
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この作品はでも今まで読んだ町田さんの作品とは少し異なり、町田さんの地声に近いものが聞こえて来る気がした。ありのままの町田さんと町田さんを取り巻くありのままの現実にいつもより近寄った場所から声がして来るように思われる。もちろんそれは意図してつくられた声だという気がする。要するにフィクションを語る位相がこれまでとは違っているわけだ。これをエッセイと呼ばないのは、太宰治のたとえば「桜桃」をエッセイとは呼ばないのと似ている。そういう風に言えば、これはおそらく太宰治に今まで*1で一番似ている作品かも知れない。
収録されている四編はすべて「天田はま子」的なものをめぐる告発だ。町田さんの持つ倫理観が根拠付きできちっと説明され「天田はま子」的人々がなぜそれに抵触するかが事細かに描かれる。いずれも言われてみればああ、こういう人いるよね、やだよね、と納得する人々ばかりだ。しかもいずれの話も笑いの方へと力が加えられているので決して重くならない。あの自在な語り口に乗せられすらすら読まされる感じだ。でも、本当はすごく怒っているんだろうなあ。そんな気がする。
「紐育外道の小島」という最後の作品はそれまでの三編と違ってフィクショナルな終わり方をしている。それはきっと町田さんの倫理観が世界全体に対して抱く違和が喩として象徴されていて、作者にとって書かずにはいられなかったシーンだったように思われる。