- 作者: 海堂尊
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2006/02/04
- メディア: 単行本
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謎の設定はうまく、展開もおもしろくて最後まで興味を逸らされない。また頻出する専門用語にそれほど煩わされずに読み進めることができるのは、要所要所に置かれたわかりやすい比喩が理解を助けてくれるからだ。終盤にはいくつかの解決が提示されるが順番にそれらがフェイクであることが明かされる。その後に待ちに待ったことの真相が現れる。そうだったのか!
という割には結末からは大したカタルシスがやって来ない。前半の引っ張り具合から言うとやや拍子抜けの感さえある。物語はきちんと作り込まれているし、おそらく作品内の論理構成にも破綻はない。結末も特に説得力を欠いているわけではない。では何が問題なのか。
思いつくのは、フィクションとしては未加工な部分が作品内の言葉に多過ぎるということだ。たとえば舞台である大学病院という場の雰囲気はすごくよく伝わって来るが、それはどこかにモデルがあることを予見させる。繰り出される専門用語は単に医療に関する事実を伝えるだけのものだ。人物の描き分けはかなりしっかりしているが、その分いささか類型的になった。比喩は確かにわかりやすいが、わかりやすさが最優先されているため言葉に張りがない。
こうしたすべてが物語のフィクション度を繰り返し地べたに引きずり戻してしまう。言い換えれば、作者の日常や知識や内部の論理などが割と生に近い形で文体の中に詰め込まれてしまい、それに追いやられるようにして文体のフィクション度がやせ細ってしまったことになると思われる。小説には小説に適した文体と、小説でしか実現できない論理というのがある気がする。それらを使った小説が個人的に好きだということだ。
でも「ダ・ヴィンチ・コード」的な意味でなら充分楽しめる作品だった。