- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2007/03/13
- メディア: 単行本
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一番古い「太陽の塔」の次に一番新しいこの本を読んだことになる。「太陽の塔」が比較的ファンタジックな文体と比較的リアリズムっぽい文体とで書き分けられているとすれば、この本もほぼ同じ文体で書き分けられていると言ってよい。間を飛ばしているので断言はできないがおそらく間に挟まれた作品も似たような文体で一貫しているように思われる。森見さんの場合、ファンタジーはユーモアの方へリアリズムは哀しみや切なさの方へ向かっていて、この短編集では「走れメロス」だけがほぼ前者の文体だけで書かれている。また「藪の中」と「桜の森の満開の下」は後者の文体が強い。「山月記」はふたつのミクスチャーだがどちらかと言えば後者の文体に傾いている。「百物語」はリアリズムっぽい文体でありながらファンタジーと言うか奇譚みたいな風にまとめられていてちょっと異質だが、やはりひとりの男の孤独みたいなものがテーマになっている。
僕は森見さんの描く哀しみや切なさが好きだ。だから「山月記」、「藪の中」、「桜・・・」はもうそれだけで好きだ。中でも「桜・・・」はすごく胸にしみた。こういうことは自分でも夢想したし、誰もが夢想することだと思う。でもそういう夢想をすること自体がすでに哀しいことなのだと言い聞かせられている気がした。切ない。
「走れメロス」は太宰治の原作の倫理を見事にひっくり返していて痛快だった。でもこの作品でも一番いいところは哀しみの影が薄くさすところだった。要するに森見さんの真骨頂は哀しみや切なさにあると個人的には見なしていることになると思う。そしてそれは「太陽の塔」を読んだ後遺症みたいなものかも知れない。