指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

遠い比喩と遠い結末。

芝生の復讐 (新潮文庫)

芝生の復讐 (新潮文庫)

アメリカの鱒釣り」と比べると文体はなんて言うかとても落ち着いていて、ユーモアよりも哀しみの方に傾いているように感じられる。「『アメリカの鱒釣り』から失われた二章」という章があって短編が二編収録されているんだけどどちらも「アメリカの鱒釣り」に入っていたら明らかに他の章からは浮いていただろうと思われる文体の変化ぶりだ(そのことは作者もしくは語り手自身が本文の中でも認めている。)。それからどの章も「アメリカの鱒釣り」よりは形式として整っていると言っていい。ただしそれでも比喩と比喩される対象物の間の距離、それからストーリーと結末の間の距離が遠いような気がする。もちろんそれがこの作品の大きな魅力のひとつなんだと思う。もしかしたら作者のみに理路がわかっているのかも知れないという想像力の自由さを感じさせるし、ときに唐突に思われる結末がもたらす味わいはこの作者独自のものという印象をつくるからだ。読者はもっとゆっくりこの作品を読むべきなのかも知れない。個人的には読者としていつもできる限り急いでるんだけどそういう読み方はふさわしくない。立ち止まり考えながら読むことが距離を縮める作業となる気がする。いつになったらそんな風な読み方ができるようになるかわからないけど。