指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

久しぶりの小説。

ラジオデイズ

ラジオデイズ

自分のブログを検索すると、最後に読んだ小説は車谷長吉さんの「贋世捨人」で四月半ばに読んだからもう一ヶ月以上も小説を読んでいないことになるかと思ったら、椎名誠さんの「武装島田倉庫」を途中で読んでいた。それにしてもここ一ヶ月で読んだ二冊目の小説が本作ということになる。ちなみに「武装島田倉庫」は本当におもしろかった。
「ラジオデイズ」を読みながら何度か奥付を確認した。1998年に出ている。なぜ出版年が気になったかと言えば、僕が個人的に「若い人たち話し言葉」と思っているものがほぼ完璧なタイミングで真芯にとらえられていて、それはいったい何年くらい前の言葉なのかが気になったからだった。奥付から数えて九年、作品に定着され出版されるまでに若干のタイムラグがあったとして(「文藝」誌への初出は1997年)、まあざっと十年くらい前の言葉ということになる。その頃の話し言葉になら僕も割とリアルに反応できる訳だ。そのせいもあってか、とにかく作中の話し言葉がテンポよく生き生きと描かれているように思われた。そしてその話し言葉が使いようによって意外と深い方向を目指せることにもちょっと驚いた。
主人公はちょっと訳ありの幼なじみから十年ぶりに接近されることを基本的には拒絶したがっている。つき合っている女の子と三人で行動したり、自室に居候を決め込む彼と少しずつ会話を交わして行くことによって彼に親和感を抱くようにも描かれているが、彼への拒絶感は最後まで手放されない。彼が去るとちょっとだけ空虚な感じが残るがそれもすぐに忘れ去られるだろう。強固な日常が待っていて、それは不思議な安心感に包まれているし、それを乱されたくない。個人的に主人公のそうした姿に深く共感した。自分もどこかで同じ体験をしている、そんな既視感があった。
膿のような黒い汗が闇に消え去ることで主人公は転位しただろうか。それは前半のシャワーのシーンと呼応しているように思われるが。