指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

大島さんは今この瞬間も猫たちに囲まれているに違いない。

久しぶりのグーグーだ。大島さんのなまの倫理観には個人的にちょっとついて行けないところがある。本作でも猫たちに対する気づかいの深さなど度が過ぎている気がして、まあ確かにそこまで突き詰めれば突き詰められるかも知れないけどその突き詰め方自体が常軌を逸してないかと思わないでもない。この倫理観がなまの形でなく物語としてつくり込まれた中に現れると、それは大島さんの作品のおそらく最大の魅力になる。痛いほどに鋭く、不可解であるが故に新鮮な倫理だ。物語の中でこの倫理が現れるときそれがどこを目指しているかは実は二の次の問題となる。そういう倫理がありうることを示しただけでそこには充分な価値が生まれるからだ。しかしエッセイマンガでは大島さんの倫理はダイレクトに読者を目指して向かって来る。倫理の意味は物語の中でよりより明確であからさまなものになり、その分読者にはその倫理が重たく感じられる。サバものの中にも幾分そういうきらいがあったが、グーグーでは一層そういう傾向が強くなっているように思われる。
だから大島さんの物語作品を読むよりもう少し距離を置いたどこかに、グーグーシリーズを楽しむための最適の場所が用意されている気がする。その最適の場所が探し当てられたかどうかは甚だ心許ないが、立ちこめる倫理の重さを払いのけ払いのけしながら何とか楽しく読み終えることができた。
大島さんはきっと今この瞬間も猫たちに囲まれているに違いない。さわやかに晴れた六月の午後だ。そんな言葉で、作品と自分との距離を象徴させたい気がする。