指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

文脈という比喩。

すぐそこにある希望

すぐそこにある希望

消耗品シリーズの最新刊。キイワードは「文脈」で、大手マスメディアが現状を把握する際の文脈が古すぎて実際には全然現状把握になっていないと繰り返し指摘される。文脈を更新するのはたとえば他者の側から自分たちがどう見えているかといった想像力なのだが、そういった想像力がまるで見当たらないことに村上さんはいらだつ。ただ危機や他者について想像力を働かせ備える作業は誰にとっても面倒で億劫で気の進まないことに違いない。だから想像力に富んだ新しい文脈は敬遠されてしまう。口当たりのいい「なぞり」ばかりがマスメディアにあふれ、難解で本格的な芸術などは疎まれる。
まあ大体そんなことになると思う。前作について書いたときにも述べたかも知れないが、消耗品シリーズは読んでてカタルシスといったものがない。辛くて暗くて厳しい。それでも読むのは、せめてこれくらいのものとは自分自身も戦っておきたいと思うからだ。現実にある危機から多かれ少なかれ目を背ける生活を送っている点において自分もまた同じ穴のむじなだからだ。
文脈という比喩を物語と読み替えながら読んだ。