指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

不機嫌で、若々しいニーチェ。

善悪の彼岸 (光文社古典新訳文庫)

善悪の彼岸 (光文社古典新訳文庫)

翻訳の読みにくさに辟易していたニーチェ光文社古典新訳文庫で出たのだから、これはもう読む、と言うか読まなければならない訳だ。でものべ三日かけて通読したがそれほど心愉しい読書体験という訳にも行かなかった。確かに読みやすい翻訳になっている。ニーチェのあの何て言うか禍々しいほどに戦闘的な文体も洗い直されて新鮮だ。ただたとえば「カラマーゾフの兄弟」の持つ普遍性と比べるとはるかに歴史の制約を受けた本だという気がした。まあ小説と哲学書(なのかね。)で比べるのも乱暴かも知れない。でも当時のニーチェがどのような歴史的、哲学史的な位置に置かれていたかという知識が無いと、納得しがたい部分がどうしても出て来てしまう。
ニーチェと言うとキリスト教的な厳格さや真面目さを生命力の衰弱の兆候と見なし、そこから人間を解放する思想の持ち主で、だからディオニュソス的な生命力を称揚しているんだと個人的に思っていたが、俺の思想ってそんな単純な一枚岩じゃないよとすごく不機嫌な顔で言われた気がした。不機嫌そうなのに若々しい。難しいなあ、哲学は、と思った。
同じ文庫で「道徳の系譜学」も近く刊行が予定されているそうだ。それともうひとつ、「善悪の彼岸」は散文化された「ツァラトゥストラ」という意味合いがあるらしい。ご存じでした?僕は知らなかった。びっくりさせられることっていくつになってもある。