指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

行き先は決まっている。

パルプ (新潮文庫)

パルプ (新潮文庫)

すごく生真面目に言うと、行き先というのは決まってる訳だ。どうしたって結局人は死ぬ。死ぬ以上は人生は無意味だという考え方もある。それでも何かを立て直し改善させて行って、少しは人生を有意義なものにしようという考え方もある。個人的にはたいてい後者を採用して生きている。前者だと何もかもいやになってしまうからだ。
「パルプ」の主人公は前者を採用して生きている気がする。だから生き続けることにうんざりしている。何もかもにうんざりしている。でもうんざりしているからと言って何かを立て直そうとか改善しようとかいう意志はまるで無い。失敗する。少し気分が暗くなり反省する。でもまた同じような失敗をする。その繰り返しだ。倫理はある。でもその倫理に従って生きる気はさらさら無いのだ。ではそんな彼に生命力を与え、とにもかくにも生き続けさせているものは何か。うまく言えないけど、何からも学ばない、何物も今後に生かさないというスタイルそのものが彼の生命力だと言うと、少しはいいような気がする。だから彼はどんなにうんざりしてもとりあえず生きている。でたらめに、場当たり的に。でたらめで場当たり的であることを貫き通したいかのように。そのスタイルのかもす寂しさに一番惹かれた。
今日秋田まで新幹線で来た。途中お昼の駅弁を食べる十数分を除いて、ずっとこの本を読んでいた。文体の速度と駆動力が強く、一度読み始めると止まらない。カラマーゾフの三部と四部みたいだ。