指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

物語の容れもの。

ルート350 (講談社文庫)

ルート350 (講談社文庫)

どの短編も設定に工夫が凝らされている。物語の容れものを組み立てる過程がそのままストーリーにになっていると言うか、うまく言えないけどそんな感じだ。見当違いかも知れないけど、所によってボルヘスを読んでるみたいな手応えを感じ取ることができる。もうひとつ気づかされるのは作者が積極的に歴史を作中に持ち込み、物語の背景に厚みを持たせようとしていることだ。その歴史はある種そっけないほど速いスピードで作品に持ち込まれる。そのスピードは歴史の持つ多義性みたいなものを削ぎ落とし、一定の方向性を持って歴史を作品に仕えさせている。という言い方はもしかしたら否定的に聞こえるかも知れないけど、僕としてはそれがすごく効果的だということがいいたい訳だ。これは「ベルカ、吠えないのか?」のときも同じだった。
「二○○二年のスロウ・ボート」のときにも思ったんだけど、古川さんは作品の最後に大きな情緒の揺れを持って行きたい作家なのではないかと思う。言い換えるときちんとオチの付いた作品が多い。そのオチの中にすごく優しいものを感じ取れるときがある。そんなタイプの古川さんの作品がとても好きだ。たとえばこの短編集の一編目とか。