指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

うわさの「うわさのベーコン」。

うわさのベーコン

うわさのベーコン

「うわさのベーコン」のことを初めて教えてくれたのはもちろん高橋源一郎さんの本だった。これは読まなきゃと思いつつ、機会を逸し続けてそのうち忘れていたらこの前の柴田元幸さんとの対談集の中でほんの少し触れられていてまた読みたくなった。忘れないうちにとeブックオフで探したら品切れ。アマゾンで探したら絶版でユーズドが5,980円から。年に一度の原稿料が二万円あまりこの前振り込まれたばかりだったので一瞬買っちゃおうかと思ったけど、念のため家人に図書館の在庫(図書館の本を在庫と言うのかどうかわからないけど。)をウェブで調べてもらったらあっさり見つかったのでとりあえず借りて来てもらった。ちなみに復刊ドットコムにもすでにエントリされていて二十数票が入っている。まあこれでは復刊はされなさそうだけど。
表題作の他に「西山さん」、「正一新聞」、「卯月の朝」の全部で四編が収録されている。そして四編が四編ともちょっと変だ。その筋では有名らしい誤字脱字やおかしな敬語の他、常体と敬体の混淆も他の作品ならそれ自体が問題となることはあまりないと思うけどこの作品ではちぐはぐな感じを抱かせる。書き手の感情が小さく破裂しているような悪態に似た言い方が唐突に現れ、この書き手(作者ではなく。)は何かバランスの崩れたところを精神に秘めているんじゃないかという気がして来る。
でもよく読むとその中に描かれているのは、失恋や報われぬ愛や場合によっては強姦事件などシリアスなテーマばかりで、それらはこの独特な文体にもぶれることなくあるべき存在感を保って作品の底に横たわっている。そしてそれが無ければ作品が成り立たなくなってしまうような大切な要を成しているように思われた。
ところで著者近影なんだけど表情と言い置き所と言い、これも作者のねらいのひとつなんだろうか。だとしたら恐いほど効果的なような気がするんだけど。