指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

異化する視線。

ラブシーンの言葉 (新潮文庫)

ラブシーンの言葉 (新潮文庫)

詩人荒川洋治さんの、広い意味での書評と言うか、エッセイと言うか、そういう本。そこかしこに鋭い言葉がちりばめられていて、一ページ読むごとにはっとさせられた。引用された一節を読む。それからそれに関する荒川さんのコメントを読む。すると多くの場合違和感が起こる。引用された一節が、荒川さんの言うような優れた表現とは思われないからだ。それでページを戻って引用をもう一度読む。荒川さんの言うように思われて来ることもあれば、依然としてそうは見えないこともある。どちらの場合でも荒川さんの言語感覚の鋭さ、あるいは不可思議さに打たれることになる。その感じがどこから来るかと考えると、荒川さんの視線が常に敏感に言葉を異化しているからじゃないかと思われる。異化して書くだけではなく、読むときにも異化の方へ感覚を全開にしていると考えると、荒川さんの物言いの敏感さ、不可思議さに、自分なりには少しだけ近づける気がする。異化を喩としてもいいのかも知れないけど、そこまで厳密に考えることは、今の僕には不可能に思われた。
末尾近くの、性器の記憶に関するエッセイにはすごく共感した。なるほど、そういうことだったのか、早く言ってよ。ちなみにこの本に出て来る引用のほとんどは、官能小説からのものです。