ひと月に10冊という目標を掲げて臨んだ年だったが、今数えたらここで感想を書いた本が90冊あまり、書いてないのを含めてもおそらく百冊には届いていない。今読んでるピンチョンの「ヴァインランド」と次に読むマッカーシーの「ブラッド・メリディアン」を、今年中にやっつけようと思っていたけどかなわなかった。残念だけど来年回し。来年は、できれば新刊と既刊とでランキングが分けられるようにせめてなりたいと思うけど、それはちょっと無理か。
1位
2位と随分迷った。つまらない結果ですいません。5巻目はほとんどが解説と言うか解題と言うかそんなのだけど(解説と解題ってどう違うんだろう?)、カラマーゾフ研究の最新がわかって興味深いと言えば言える。こういうのって意外と流行みたいなものがあるんじゃないかと思う。二十年後の研究成果も読んでみたい気がする。
2位
物語の強さ、細部、流れとどれをとってもすごく引きつけられた。世界の中心は性なんだろうか。だとしても個人的にはまるで不思議じゃないように思われる。それと村上さんの作品では、幼なじみ同士の大人になってからの愛というのがしばしば出てくる。「国境の南、太陽の西」でもそうだったし、「海辺のカフカ」でもそうだった。そしてそれは必ず悲劇に終わる。それが意味するものをあれこれ考えると割と楽しい。ちなみに僕は「Book2では終わってない」派です。「ねじまき鳥クロニクル」のいきさつもよく憶えているし。
3位
毎週あちこちの書店で見るとすごく売れてるんじゃないかという気がする。読みやすくて深い。ただコジマは結局間違ってしまったと読まないと、ラストの主人公の哀しみが今ひとつよくわからないと思うんだけど。「悪の倫理(非倫理)」は、後述する作品にも共通している。
4位
ゴミ屋敷をめぐるお話。迷惑する近隣と無責任なマスコミをまず描いてからゴミ屋敷の主人の来歴が明かされる。来歴はほとんど幻視と言っていいほど作者の想像力に拠っているように思われる。それを時代背景とうまく絡み合わせてリアリティーのあるものにしている。「ヘヴン」とはまた違った意味で美しく哀しい幕切れ。
5位
前にも書いた通り個人的には現代のイヴァン・カラマーゾフの話に思えた。村上龍さんの「半島を出よ」とか「愛と幻想のファシズム」とかいったすごくスケールの大きな物語を、そのスケールのままもっとずっと緻密に描いたみたいな印象の作品。「葬送」は前半の文体を後半まで持ちこたえられなかった気がしたが、この作品は強い力で最後まで描き切られている。「ヘヴン」と同質の「悪の(非)倫理」には震撼させられる。
6位
「1Q84」の下敷きになった作品と言われるがその関連性は個人的にはつかんでいない。昔見た「未来世紀ブラジル」みたいに高度に管理された社会の恐怖が描かれる。古いと言えば古い作品だけど真空パックみたいな新鮮なおもしろさを今も保っている。
7位
作者が男性だとは今でもちょっと信じられない。「ジャージの二人」の後日談と言っていいと思うけど、作者はよりフィクショナルになることを目指して意識的にこの根拠の無い世界を描いたような気がする。あるいは「ジャージの二人」の方向だけで終わらせるにはこの世界はあまりに魅力に富んでいたということか。
8位
今年は結構津村さんの新刊が出たのだからもっと読めばよかった。なんで読まなかったかな。とにかくおもしろい小説だった。文体の位置がすごく微妙で、ビミョーにこれまで読んだことのない感じがする。
9位
もっと上でもよかったかも知れないけど、すでに「1Q84」が入っているのでこの辺に。読めば(読まなくても)なんらかの形でベストに入れない訳には行かないことがおわかりいただける気がする。
10位
ガルシア=マルケスのファンなら必読かも。文体は錯綜しているけど、この作者はノンフィクションでも文体が折れ曲がり入り組んでいるんだった。コロンビアの誘拐について書かれた作品がそうだった。今思い出した。
同順位
実は今年一番たくさん読んだのは古川さんの本だった。中でもこれが一番よく読めたので。
あと、舞城さんの「ビッチマグネット」は押し出されて次点ということにしときます。