指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

中間項としての「あたし」。

星へ落ちる 金原ひとみ著 「星へ落ちる」
「彼」がいて「あたし」がいる。「彼」には同性の恋人がいて「あたし」には三年同棲した上数ヶ月前にその部屋を飛び出して来た元カレがいる。典型的な三角関係の頂点のひとつにもうひとりの男がぶら下がっている、そんな図式だ。最初「彼」は恋人と同居していて「あたし」は彼が自分の部屋にやって来るのを狂おしく待ち続ける。「彼」と「あたし」は担当編集者と作家で肉体関係もある。同時に「彼」の恋人も「彼」の挙動からその浮気に気づき、でも同居の最初から束縛したり依存したりし合わないという約束を「彼」としていたために「彼」を責めたりなじったりできずにやはり密かに狂おしく「彼」を求めている。一方、目の前から突然消えてしまった「あたし」を呼び戻そうと「あたし」の元カレも狂おしい思いで「あたし」にケータイやメールで連絡し続けている。徐々に狂気を帯びて行く恋人から「彼」は重点を「あたし」に移しふたりの暮らしが始まる。でも、それは「あたし」の「彼」に対する猜疑心をいっそう深めることになるだけだった。
「彼」ひとりが超越していて、あとの三人は同じように愛する者に苦しめられている。このうち「彼」の同性の恋人と「あたし」の元カレは一方的に苦しめられるだけだ。「あたし」は「彼」に苦しめられながら元カレを苦しめるという、中間項みたいな位置にいる。もちろん「あたし」は誰かに苦しめられるという同じ立場の人間として元カレに同情したりしない。でも特に憎んでいる風でもない。一緒に暮らしていたときは世話女房みたいに元カレに尽くしていたが、それはすでに終わった。だからたぶん中間項としての「あたし」は明らかな断絶を経て今の「あたし」になっていると思われる。
そういうのってすごく必然的で動かしがたくてきついだろうなあ、と思えればそれでいいのかも知れない。ただ本音を言えばちょっとつき合いきれない気がした。