指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

学費を振り込む。

 昨日触れたやらなければならないことのひとつに子供の学費を振り込むことがあった。振込先はうちが口座を持ってない銀行を使っていてしかもこのあたりに支店がないのでいつもはよく行く西友の近くの支店で振り込んでいる。同じ銀行の支店からなら振込料が無料だからだ。でも歩いて行けば三十分はかかる。この炎天下の中往復一時間かけて歩くのはマジで命に関わる気がして二の足を踏んでいた。でもその西友にも随分ご無沙汰だしじゃあ交通費かけてでも行ってみようかということで話がまとまり今日家人と行ってきた。電車でもバスでも直通では行けないのでいろいろ乗り継いで行く。駅に着くとまず郵便局で奨学金を下ろす。昨年から給付額が三割くらい減らされた上に学費の免除額も減らされたので十万円くらい持ち出しにしなければならない。でも三月四月と馬車馬のようにバイトしたのでそれくらいは負担できる。とりあえず奨学金を根こそぎ下ろし虎の子の十万円と合わせると今回支払う額になんとか到達する。それを手に意気揚々とまでは行かないにしても深い安堵感と共に銀行へ向かう。ただ数十万円を懐に道を歩くなんて学費を振り込むときの郵便局から銀行までの数十メートルしかないのでそれなりに緊張する。六十を目前にしても小心者は小心者だ。でもまあ手続きもスムーズに終わって無事振込完了。家人に生活費を渡すとか家賃を払うとか僕が果たすべき重要なことはいくつかある。でもこの学費を納めることの重要さはそれらとちょっと意味が違う。たぶん金銭的なことで子供に迷惑をかけるというのが僕にとっていちばんあってはならないことと思いなされてるからだと思う。
 それから西友で心置きなく買い物をして日陰なんてどこにもない道を歩いていつものお弁当屋さんへ向かう。行ってみるとしばらく見かけなかったきれいめのおねえさんが接客をしていて自分としては顔見知りと言っていい自信があったのでなんかお久しぶりですねと思わず声をかけた。するとちらっと目を上げてお久しぶりですと返してくれた後お総菜をひとつおまけにくれた。そういうのってなんかうれしい。前にも一度お総菜をおまけしてもらったことがあってそれが根拠で顔を覚えられてると思ってるんだけどその話をすると家人は割に懐疑的なことを言う。そりゃお久しぶりですねって言われればお店の人なんだからお久しぶりですって返すのは当然だよねみたいな。でも君はお総菜おまけされたことないだろう僕はこれで二度目だけどねと心の中だけで思ってもちろん口外はしない。そういうのはまあ自己満足に留めておくくらいがちょうどいいんだろう。
 そこから家までは歩いて二十分くらい。でもバスもあるのでバスに乗ることにする。なにしろ暑くて。なかなか来ない日もあるんだけど今日は定刻より三分も早く来たので全部で五分くらいで帰宅することができた。バイトに行く子供にまずお弁当を食べさせ家人と僕はシャワーを浴びてゆっくり一杯やる。それからお弁当を食べて昼寝。起きたら授業。夏休みが近づき保護者の方々からいろいろ問い合わせが来て大変だった。すいませんけど返信を書く時間の時給もらってもいいですかね。夜はなんか家人の個人的な問題について議論。思うところは伝える。二十年以上明らかにされてこなかった家人の秘密に初めてメスが入るのかも知れない。