指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

夏期講習が終わった。

 起き抜けの体はあらゆる労働を拒否する勢いで猛烈に打ちのめされている。心の底から本当に行きたくないなあと思う。でもそういう訳には行かない。対価だけ受け取っておいて仕事はばっくれるという訳には行かない。それが資本主義の中で生きて行くための最低ラインの倫理だ。だから食べたくないのに無理矢理朝食を済ませて仕度を調えて出かける。夏期講習最終日は生徒数が多くて手間のかかる授業になった。とにかく目の前に現れる課題を片付ける。その繰り返しだ。そうやって規定の時間を乗り切ると教室のドアを閉めて鍵をかけバイト先に向かう。暑い。更衣室で着替えて顔を合わすスタッフさんたちに挨拶して持ち場につく。いつもは三人体制で回す仕事が一時一人だけになっちゃったけどもう慣れたと言えば言える。淡々とこなす。だってそうするしかないじゃん。この淡々とこなすモードに入ると割に楽に仕事ができる。先のことは考えず過ぎたことは悔やまず。人ひとりにできることなんてどうせたかが知れている。何をどう考えたって状況が好転する訳じゃない。つまり一種の判断停止状態なんだろうな。でも楽は楽だ。根が小心者なのでいつもいつもそうできるとは限らないけど。そうしてバイトが終わるとお昼のブレイクだ。家人と一杯やりながらいろいろな話をする。笑う。この人と結婚したメリットは多々あるんだけど―と言うか結婚をメリットという観点から語るのもどうかと思うけど―笑うというのはすごい大きな要素だと思う。家人はおそらくお笑い番組がいちばん好きであらゆるお笑い番組を録画している。帯番組のラヴィット!でさえ毎日録画してる。それでときにはふたりの会話が掛け合い漫才みたいな感じになって大笑いする。僕も人を笑わせるのは嫌いじゃないので―そういうのって話し相手に対するサービスの一種だと思ってるところがある―家人に拮抗できてると思う。そうしてひとしきり笑ってから昼寝する。
 今日に限って言えば昼寝からの寝覚めも悪かった。大体はアラームより前に目覚めるんだけどアラームにたたき起こされる日は当然寝覚めはよくない。でも時間もあまりないので準備をして出かける。午後の授業は本当にきつかった。自分が疲れ切ってるのがわかった。でも解説すべきことがあればときにホワイトボードを使って解説しなければならない。それをやめちゃったら学習塾じゃなくなっちゃうからね。時計で残り時間を数分ごとにあと二時間あと一時間四十五分と確認しながらへとへとになって解説を続ける。そして不意に終わりがやって来る。すべての時間は過ぎたし残りの時間は全部自分のものだ。生徒さんたちが帰った後はカーペンターズの「One More Time」をエンドレスのリピートにしてかけながら消しゴムのごみを机から掃除したりごみ箱のごみを回収したり今日もらった月謝を数えてまとめたりして少しだけひとりの時間を楽しむ。あんまり疲れてると生徒さんが帰った後いすに座ったきり何をする気にもなれずに座りっぱなしになったりもするけどね。今日はそれほどじゃなかった。帰宅して入浴して寝酒の途中で家人にお願いして夕食を出してもらう。夕食なんて食べる元気がないのでほんのわずかな量だ。それが済んで寝酒の続きを飲んでいる。家人はスプラトゥーン3をやっている。十一時を過ぎたのでそろそろ寝ようかと思っている。明日は子供の誕生日だ。うちの子が生まれた日の話お読みになりたい方いらっしゃいます?「8月に生まれる子供」でこのブログを検索してみて下さい。割にすごい話です。と僕は思います。