指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

読書本二冊。

 いずれも平野啓一郎さんのご著書で後者は前者の続編という位置づけでいいんだろうと思う。前者は主として速読本へのアンチテーゼとして書かれている。速読で豊かな読書体験が得られるのかという懐疑で答えはもちろんノーだ。文章というのはリニアなものとして考えられがちだが必ずしもリニアに読むことばかりが読書という訳ではない。必要ならページをさかのぼったり似たようなことが書いてあったなという記憶があれば途中で他の本を開いて読んだりしても構わない。読書がそういう性質のものならなるほど速読という行為はその意味を失うだろう。ただひとつ疑問なのはゆっくり読むことがそのまま深く読むことにつながるんだろうかということだ。たとえば僕も読むのがとても遅いんだけど遅いからと言って深く読めてるとは限らない気がする。深く読むためにはある種の「気づき」が必要だが「気づき」とはやって来る人にはやって来るしやって来ない人には来ないものだからだ。つまりゆっくり読みさえすればなんとかなるほど読書というのは甘くないというのが個人的な実感になる。どうしたって歯が立たない本だってある。
 後者はさらに的を絞って小説の読み方に特化している。でも「四つの問い」で小説を読むという方法論の「四つの問い」というのがそもそも僕には理解できなかった。また実践編で取り上げられている様々な小説作品の読み方にしてもその「四つの問い」が駆使されてるとは到底思えなかった。実践編を読んでの正直な感想を言えば作品の数だけその作品に見合った読み方があるというおよそ方法論という言葉とは正反対なものになってしまう。という訳で本の読み方も小説の読み方もあまりよくわからなかった。でもどちらも読んでいてそれなりにおもしろいのでここまでの文脈に反して個人的にはこれら二冊に関して肯定的な思いを抱いている。要するにまた自分の読解力のなさを思い知らされただけで終わったということだ。その点ではこれら二冊とはまったく無関係に僕ひとりが堂々巡りをしているだけの話かも知れない。