指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

本当に弱い。

 今日は結構てんこ盛りいろいろあった日で書けば長くなりそうだけどもう時間もないのでいちばん心に残ったことだけ。髪を切りに東京駅へまた行ったらいつものQBハウスには例によって開店前の列ができてたので少しほとぼりが冷めた頃出直そうと家人の希望で八重洲口の道の向こうにあるヤマダ電機に行くことにした。それで八重洲の地下街を歩いているとプラレールと印刷されたビニール袋を持った二歳くらいの男の子と彼と手をつなぐお父さんに出くわす。まだお店が開店したばかりの時間帯だったので朝イチでお目当てのものを買ってもらって意気揚々と帰路についたばかりに見える。後ろから着いて行く形になると家人がああいうの見るとほんとにきゅんとしちゃうねと言う。ところが僕はきゅんとするどころではなくもう感極まって涙ぐみそうになってる。それはマジであの頃のうちの子と僕の姿に他ならないからだ。それで場所がうまく説明できないんだけど八重洲地下街から地上に出られる階段で出るとすぐ日本橋へ通じる桜通りって名前だったかな桜並木の道に出られる割に細い階段があるじゃないですかそこへ彼らが差しかかった。僕らも着いてった。するとほら小さい男の子だから階段なんてゆっくりしか上れないじゃないですか。僕らが追い越そうとするとそれに気づいたお父さんは「すいません」と言って子供を抱き上げようとした。本当に心ないことをしてしまった。男の子のスピードに合わせて追いつかないように気をつけて着いて行くんだった。いやゆっくりでいいんですよと思わず大きい声が出たんだけどお父さんはもう二回「すいません」を繰り返して子供を抱いて上って行った。そのとき僕はこのお父さんの視野の広さと気づかいの細やかさに本当に感じ入っていた。まず子供とふたりで買い物に来てるということはその時間だけでもせめて妻を休ませてやろうという思いやりが備わってることを意味してる。僕もそんなことを考えながら幼い子をトミカショップへ連れてってた。それと幼い子供とふたりきりでどこかへ出かけられるほど子供とのコミュニケーションが取れてるという自信があるということもわかる。二歳児が愚図り始めたら父親ではちょっと手出しできないんじゃないかと思うけどたとえそうなってもなんとかなだめられるという自信があるのは大したものだと思う。それから周囲への気配りだ。気配りというのはそもそも視野が広くて問題に気づけなければ成り立たない。その点でもこのお父さんはとてもすぐれた人物のように思われた。そういうことを思い合わせると涙が止まらなくなりそうで何度かやばかったんだけどなんとか家人には気取られずに済んだ。あの親子に幸多かれと思うけどあれだけしっかりしたお父さんなら子供はそして奥様も幸せに決まってる。