指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

キリン秋味。

 いつものスーパーでキリンの秋味を見かけたのでこの前買ってみた。「Since 1991」とあるので発売からもう三十年以上経つらしい。毎年必ず買うかと言われると全然そんなことはなくて三十年以上の間に一回か二回買ったことがあるだけだ。たぶん独身の頃に買って飲んでそれほど感心しなかったんじゃないかと思う。以来秋が近づく度に見かけるものの特に飲む必要のないビールとしてスルーされて来た。それがなんで急に買う気になったかと言うとほんとはよくわからない。ただ最近キリンやサッポロから期間限定とかで売り出されるビールはこまめに買うようにしてたのでその流れで半ば無意識に手が伸びたということかも知れない。毎年見かけるとは言えこのビールも期間限定だし最近の期間限定ものはたいてい割においしかったから。秋味と言えば麦芽1.5倍だったのに今年は1.3倍と表記されてる。そういうのなんて言ったっけ。実質値上げ?ステルス値上げ?なんて言うか物価上昇のお寒い事情を如実に反映してるように思えてそこはかとなく切ない。でも考えてみれば小麦なんて値上がりの先鋒を切ってた気もするしまあ仕方ないのかも知れない。という訳で大した期待もせずに飲んでみたらこれがなかなかおいしい。何より家人が気に入ったというのが大きい。うちの場合家人は夜は滅多に飲まず昼食前にビールの350ml缶を一本飲むのが長い間の習わしだった。それが少し前から飲む量がちょっとだけ増えた。500mlを一本までは飲めないので僕がふた口分くらいもらって残りを家人が飲む。最近はそれでも足りないように見えるけどひとりで全部飲むより一本を僕とシェアすることに喜びを見出してる節もあるので今のところ余計な口出しはしないようにしてる。でも僕はことアルコールに関しては自分にも他人にも底抜けに鷹揚なので500飲みたいなら我慢しないで飲んだらいいんじゃないのと思って見てる。それが口をついて出るのも時間の問題かも知れない。昨日も一本買って来てひと晩冷やしてから今日のお昼に飲んだ。やはり割とおいしい気がした。そう考えると若い頃の方がビールの味にこだわってたと言うか本当においしいものしか認めないみたいなとんがったところがあったのかも知れない。その基準に照らすと秋味は合格点に達してないように思われたのかも知れない。でも今はそこそこおいしければ素直においしいと認めるようになってきた気がする。もっともだからと言ってなんでも飲むかと言うとそうではなくて今でもスーパードライとサッポロがつくってるけどヱビスビールは目の敵にしてるしサントリーには何十年単位で一切手出ししてない。そんな本当につまらないことに僕のささやかなアイデンティティーはかかっている。