指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

男を「キミ」と呼ぶ女。

ニート

ニート

収録作品5作のうち「ベル・エポック」を除いた4作に駄目な男が登場する。その駄目さ加減は表題作の男を中間に置いて、ひとりはもう少しマシでひとりはもう少しひどくもうひとりは表題作の後日談と思われるので同じ男と見なす。そして計3人の駄目な男のうち中間の男ともう少しひどい男は語り手である女性から前者は「キミ」、後者は「君」と呼ばれている。
僕は基本的に女性からキミと呼ばれるのが好きではない。うまく言えないけど親密さを拒まれている気がするからだ。それくらいならクラスメイトみたいな感じでなになに君とクン付けされた方がまだしも親密な気がする。もちろんどんな女の子とも親密になりたいと思っているわけじゃないけど、キミという響きにはことさらに相手を遠くに追いやっておきたい意図を感じる。
だから男の側が主人公たちに対してあまりまともな扱いをしないのも何となくうなずけてしまう。ひとりはニートの男で、主人公は彼に気を遣いながら援助を申し出、実際に困窮した彼を自分の部屋に呼び寄せて面倒を見るのだが(その間性交渉もある。)、彼の方はその期間が終わったらもとのニートの生活に逆戻りしてしまうことが示唆されている。これは主人公が結局は男から拒まれていることを暗示している気がする。もうひとりも男から変態的なプレイを仕掛けられることになる。男は主人公に昔から憧れていたようなことを口にするが、それは性欲の対象としてのみのように見える。ここでも主人公は男から最終的に拒まれている。初めての性交渉で変態的なプレイを仕掛ける男が、相手の女を心底大切に思っているわけがないのだ。
そういう意味では死者しか男の現れない「ベル・エポック」まで含めて、女が男から拒まれ続ける作品集ということになる気がする。でもそれはまるで逆に女が男を拒み続ける作品集でもあるようにも見える。そして少なくとも僕にとっては、キミという呼称がそう見える根拠になっている。