指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

ベストセラーの理由。

夜のピクニック

夜のピクニック

ケータイがなくいじめがない。僕が覚えている限りでは「都市伝説」という言葉が作中で時代的に最も新しい言葉だった。それよりも新しい時代の風俗は盛り込まれていない。それにしては舞台は現代に結構近い気がする。それが、この作品がベストセラーになった一番の要因だと思われた。
作者は実際にこの夜のピクニックを体験したことがあるか、そうでなければかなり綿密に取材した上でイメージを作り上げているに違いない。本当は前者だと言い切ってしまうとうまく腑に落ちることがある。それは夜のピクニックの元々のイメージは少なくとも20年以上は前のものではないかということだ。その頃の進学校なら、確かにあまりいじめはなかったかも知れない。
その元々のイメージを現代に持って来て、その上でストーリーを組み立てたと考えると一番無理がない気がする。そして現代の学校の環境ではなかなか難しそうな、健康でのびやかな若者と彼らの心の動きを作中に実現できるように思われる。それがこの作品が多くの読者の心を惹きつける一番の要因だと言いたい訳だ。ある種のノスタルジーだ。でも、そのノスタルジーに乗っかる訳には行かないような気がした。
「図書室の海」に較べてすごく読みやすかった。