指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

覚悟。

神様 2011
この作品のことを知ったのは高橋源一郎さんの文章を通してだった。その後何かの機会でもともとの「神様」という短編は読んだ。隣人の「くま」という個性が持つ独特な存在感を、多少の違和を感じながらもできるだけそのまま日常の中に受け容れたい主人公の姿を描いた作品のように思われた。この前渋谷のブックオフでこの本を見つけたときそれまで見たことがなかったのでそのコンパクトな装幀に驚かされた。収録されているのは「神様」と「神様 2011」と作者の「あとがき」のみ。それらを合わせて50ページ足らずの本だ。「神様 2011」は福島第一原発の事故以降の世界で語られた「神様」ということになると思う。そこでは「防護服」や「セシウム」や「線量」や「被曝」なんかが世界像に追加されている。でもそれでも主人公は「神様」の中でと同じようにそこで暮らし続けようとしている。それだけの覚悟を決して声高にではないけどはっきりと宣言している。その姿がとても胸に響いた。あとがきによると作者はあの三月の末までに「神様」を元にこの「神様 2011」という作品を書いたそうだ。その判断のスピードにも驚かされる。僕なんかあの三月はおろか現在に至っても何ひとつまともに判断できていない気がする。