指栞(ゆびしおり)

すまじきものは宮仕え。

その人の文体。

ガルシア=マルケス「東欧」を行く

ガルシア=マルケス「東欧」を行く

ガルシア=マルケスの書いたノンフィクションというと「ジャーナリズム作品集」とか「戒厳令下チリ潜入記」とかあとコロンビアの誘拐について書かれたものなどを読んだことがある。「幸福な無名時代」なんていうのもあったか。でも読んだのはいずれもかなり昔でどんな感じだったか覚えていない。この本が出ると知ったときもどちらかと言えば自分はこの作者のフィクションが好きなのであってもしかしたら読んでがっかりするような作品なんじゃないかという気がした。でも読み始めてたったの一ページでそんな不安は霧消した。そこにはガブリエル・ガルシア=マルケスにしか書けない文章があったからだ。それはノンフィクションの文体と言う以上にガルシア=マルケスの個性に貫かれた文体だった。ここに収録された文章が書かれたのは大体1950年代の後半のことらしい。最初の短編集「落葉」に収録された作品群が書かれたのが1947年から1955年の間ということなので(あまり反響はなかったらしいが。)、すでに作者はフィクションのための文体をつくり出していたことになる。それが、このノンフィクションの文体にそれほど違和感を抱かせない原因となっているように思われる。もちろんたとえば「百年の孤独」と「迷宮の将軍」では文体はかなり異なっていた覚えがあるけど、それでもこの作品も含めてどの作品にも紛れもない作者の刻印が捺されていると考えていい。
それから余談なんだけどこの本の底本がよくわからない。コピーライト表示を見ると「Da viaje por Europa del Este by Gabriel Garcia Marquez Copyright 1983 by Gabriel Garcia Marquez (以下略)」とあるので1983年に出版されたのかと思ったら、「訳者解説」にはこうある。

(前略)
 本書を訳してみようと思ったのは、新潮社出版部の冨澤詳郎氏からこのような本がスペイン語圏で改めて出るとのことですが、一度目を通していただけませんかと依頼されたのがきっかけだった。(後略)

残念なことにこの「訳者解説」には日付がついていないので訳者がこれを訳したのが1983年当時だった可能性は捨てきれないが、それを今年になって出版するというのも現実的には不自然な話だ。だとすると底本はどれなんだろう。どうでもいいかも知れないけど気になる。