指栞(ゆびしおり)

すまじきものは宮仕え。

はかない理由。

NOVEL 11, BOOK 18 - ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン

NOVEL 11, BOOK 18 - ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン

これも新刊で買ったんだけど一年以上放置した後での読了。タイトルから、書物にまつわるお話かと思ったけど全然そんなことなかった。その理由は訳者の後書きに譲る。物語は、始まりから奇妙な味わいでそれは最後まで続く。何が言われているのかは瞬間瞬間明確につかめるし、不思議に説得力があって共感できるんだけど、特に後半はこちらもその語り口に慣れるせいか主人公の思いが本当によく伝わって来るんだけど、何かが変だという感じがずっとついて回る。後から考えて、それは主人公の行動の理由が希薄と言うか、弱いと言うか、はかないと言うか、そのせいだったような気がした。状況に流されるというのとはまた違うんだけど、人生におけるかなり重大な決断を、他人にはよくわかりづらい理由で行っているように読める。愛すべき誰かとの関わりも、ぞんざいと言うか、愛よりも違和感が先に立つような関係のあり方に置き換わっていて、本当に心から誰かを求めているように見えない。それでいて主人公はいつも考え抜いた上で自分の身の振り方を決めているし、切実に愛する対象を求めているようでもある。そんな矛盾した人物像ができあがる。でも、よく考えてみると人生の選択とか愛すべき人たちへの思いとかいうものは、どんなに誠実に考え尽くしたところでそんな風にわかりづらいものになってしまうのではないだろうか。他人にわかりづらいのはもちろん、自分にとってさえ。だから気がつくと誰もがいつしか見慣れない風景の中に立っている自分に気づき、どうしてこうなってしまったんだろうと首を傾げることになる。それは他ならぬ僕自身の、あなた自身の、姿でもあるのだ。
ノルウェイの小説ということで重訳なのかなと思っていたけど後書きによるとその通りだった。そうであっても自分で翻訳して出版したいという訳者の考えも納得が行く。それと一点気づいたのは、訳者の姿がすごく透明に近いということだ。これまでの村上さんの訳には、多かれ少なかれ村上節みたいなものが感じ取れたけど、この訳に関しては違った。想像するに、作者との距離が遠いからではないだろうか。